校長のメッセージ  27 和田 征士 平成15年 10月6日
 《 海城祭 模擬授業開催 》

9月20日(土)21日(日)に「海城祭」が行われました。前回の26号に続き、海城祭の折りに行われました「模擬授業」につきましてここで報告します。
 この模擬授業は、2日間にわたって行われ、コンピューターを使った授業ですが、参加者は、その折りに見学にこられた小学生の希望者を対象にして、本校社会科主任の林教諭が実施したものです。本校中学校1年生の「社会T」の授業を再現する形で行われました。このような場合の授業が講義による授業では、対象となる人から考えて、内容的に理解できない部分も多かったのではないかと思いますが、コンピューターを操作して、知りたいことを検索していく授業ですから、こんなやり方をすれば知りたい事柄に行き着けるのかと、参加した子どもたちが、あの模擬授業でコンピューターの虜になった人も多く出たのではないかと感ずるような授業風景でした。
極めて高い好評をえた模擬授業でした。


 折から、電車の中で携帯電話を使う場合の「マナー」が一部変更されました。授業では、シルバーシート付近だけはなぜ携帯電話の電源を切る必要があるのか。携帯電話は心臓のペースメーカーに悪い影響を本当に及ぼすのか。携帯電話が発する電波の一般人への影響はあるのかなどの疑問について調べてみようというのがテーマでした。
 この調べ学習は実は本校の学習の特色を示す大きな要素の一部を形成しております。そのことには後で触れるとして、模擬授業の一部をここで再現してみます。

場所は本校コンピューター教室を使用しました。教室には、コンピューターが約50台設置されています。各コンピューターの前には小学生の受講者とその保護者の方が席に着いています。授業では、コンピューターのスイッチを入れる場面から始まりますが、直ぐにインターネットの検索に入ります。「Google」画面を出し、キーワードとして「携帯電話 電磁波 人体 影響」を打ち込み、“検索”文字をクリックします。関連項目が出てきたら、
600余項目の内20項目目、文末の「2」の項目ををクリック。
「電磁波問題市民研究会」の項目をクリック。
文末の「電磁波研究会報インデックスページに戻る」の項目をクリック
文末の「日本語トップページに戻る」の項目をクリック。
電磁波研会報(抜粋)の項目をクリック
「電磁波研会報23号」の項目をクリック。
〈目次〉の下にある上から3項目を閲覧する。
 ・公開された文部科学省全国疫学調査では4ミリガウス以上で急性  白血病が4.73倍
 ・文部科学省全国疫学調査「生活環境中電磁界による小児の健康リ  スク評価に関する研究」報告書のあらまし
 ・京都大学基礎物理学研究所・研究会「電磁波と生体への影響」が  開かれる
(上記3項目のおおよその理解)

「Google」に戻り、「携帯電話 電磁波 人体 影響 ガウス 規制基準値」を打ち込み、検索する。
「電磁波と安全基準」の項目をクリック。
“日常環境の超低周波の電磁波が4ミリガウス……の規制値は定められていない”ことが分かります。

(もとに戻って)
電磁波研会報16号の内容閲覧
5項目目  ・大分県別府市春木地区で、小学生や幼児28名が携帯電話基地局鉄塔の建設と操業の差し止め仮処分申請を大分地方裁判所に申請

(もとに戻って)
電磁波研18号の内容閲覧
7項目目  ・私が裁判でいいたいこと(大分県小学生が大分地方裁判所で陳述)(内容のおおよその理解)

 授業では、こんなふうに展開していきます。特に小学生が電磁波の危険性に着目していることに驚きを覚えました。授業者の意図もそこにあったと思います。
 ここで、コンピューターの操作を具体的に記述した目的は、この欄をお読みになった方が追っかけでコンピューターを操作すれば、再現できるように配慮しました。

 この授業はテーマ設定にかなり苦慮したと思われます。小学生にも問題意識が持てること。話題に適時性が必要であることなどが挙げられます。
 インターネットをこんな使い方ができるのかと驚いた参加者も多いと思います。本校では、コンピューター利用、インターネット利用では、トップレベルにあるのではないかと考えています。
 事実、この模擬授業公開のお知らせを本校ホームページでご覧になって授業見学にこられたある大手塾の進学情報センター所長さんは、「最近希に見る素晴らしい授業」と言っておられました。

《 コンピューター検索授業の位置づけ 》
 本校の中学校では、1年から3年まで、週2校時をそれぞれ「社会T・U・V」の科目と名付け、“調べ学習によるレポート提出の授業”として位置づけ、各学期毎に生徒自らの興味と関心によって設定した課題に沿って調べ、まとめてレポートにして提出します。この中で調べる過程において、インターネットは大きな武器になります。コンピューター学習は、調べるための大きな手段として利用するのです。インターネットの他に、印刷文献や、その道のオーソリティーにインタビューする方法も採られます。
 中学校3年では、「卒業論文」と位置づけ、1年間かけて調査、取材、執筆を行います。テーマ設定は自分の興味関心が先ず必要ですから、教科担当の先生と相談しながら進めます。勿論、一人ひとり皆、異なるテーマになります。論文構成から自分で行うわけですから、その構想が必要でありますし、取材文献をインターネットで行うのか、印刷文献にするのか。取材相手の選定や、取材の際のマナーも整える必要もあります。また、論文としてまとめたものをプレゼンテーションして他の人に内容を理解して貰うこと及びできれば共感を得られることも目指したいものです。
こうした多岐にわたる要素を丁寧にクリアーしていくことになります。
 今回、模擬授業で行われたコンピューター学習は、このような学習の一環として位置づけられています。

《 10年以上前から 》
この学習は、平成4年(1992年)から行われるようになりました。そのいきさつも試行錯誤の結果生み出されましたが、そのことにつきましては、別の機会に触れたいと思います。
ただ、ここで指摘しておきたいのは、当時の生徒の実態からして、この方法を採用することが、どうしても必要であると考え、実行に移していった本校の先生方の「生徒を思う心や、教育のあり方に向ける情熱追求の深さについてであります。」

 この学習の効果は、むしろ生徒が大学や社会に進んでから、発揮されるものと思います。何故なら、大学では、まさにこのままといって良い論文作成は大きな部分を占めることになります。また、社会に出ればある集団の中で問題が発生し、対応策が必要になる場面は常に生じます。その際に採る手法がまさにこの学習そのままのやり方になるのではないでしょうか。問題の所在を明確に把握し、原因を調べ、対策を調査し、まとめてプレゼンテーションし、関係者の理解と賛同を経て実行に移されていくのが通常の手段です。。

《 考える能力の育成 》
  マニュアル人間と呼ばれるなど、命令された内容の実行能力はかなり高いものがありながら、自ら工夫し新しいやり方、方法を開拓する能力がなかなか育たない。現代っ子の特長のひとつであるとよく指摘されます。これらは知識偏重教育のこれまでの教育の弊害ともいわれます。
 「考える能力」を育てることが大学を含めてこれからの教育の課題であると私は認識しています。その為に、中学校では昨年から、高等学校では今年度から学習指導要領が変わり、「総合的な学習の時間」が新設されました。この授業のねらいについて、指導要領改訂の元になった教育課程審議会の平成10年7月29日に出された答申の中に、明快に表現されています。この時間のねらいは、『自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることである。また、情報の集め方、調べ方、まとめ方、報告や発表・討論の仕方などの学び方やものの考え方を身につける』ことであると指摘しています。
 当時、教育課程審議会の委員として、審議に加わっていた私は、この「ねらい」は「新たな時間」の創設ではなく、授業方法の改善として扱うべきことを強く主張しましたが採用にはなりませんでした。今でも、中学・高等学校では、このねらい達成には、授業方法改善として打ち出した方がもっと多くの学校で受け入れられ、ねらいが達成できるのではないかと考えています。
 小・中・高でねらい達成のためのアプローチの仕方をもっと追求した方が良いのではないかと思っています。