校長のメッセージ  21 和田 征士 平成15年 6月25日

《 教育実習の授業 》

 6月4日から6月26日まで教育実習生が来て、授業やHR,クラブ活動などに入り、研究授業も行われました。
 生徒はいつもの先生とは異なる雰囲気を持った教生の人たちのフレッシュ感覚に刺激を受けた面が幾つもあったようです。教育実習生の研究授業の様子を、「国語B」として中学校2年生のあるクラスで行われた授業をここでご紹介します。
 単元名は「古典に親しむ」教科書中学国語 伝え合う言葉2(教育出版)
 教科書の、「敦盛の最後ー平家物語」の部分でした。
 中学二年生は、古典作品にはなじみが薄く、古文である平家物語に初めて出会うことを頭に入れて、教生の授業が始まりました。先ず、教科書の平家物語の一部をみんなで大きな声を出して読みました。そしてわかりにくい言葉を中心に現代語に直した言葉で丁寧に説明があり、全体の現代語訳もあります。授業はそんな形で進行していきました。  

 教科書に出ている場面は、平家の若武者・十七歳の「敦盛」が、源氏の「熊谷次郎直実」に合戦で討ち取られる場面です。平家物語の大きな山場のひとつです。熊谷次郎直実は、自分の息子のような平家の御曹司を合戦とはいえ、討ち取らなければならない立場に置かれてしまい、やむなく敦盛を討ち取ります。でも、武士であって已むなくそうしたのでありますが、後に後悔が残ります。

 教科書はそこで終わっていますが、この研究授業においては、教生の先生が“質問”の用紙を準備していました。
 《直実の告白文》を書いてみようというものでした。
質問の課題は、「自分が直実になったつもりで、若武者の首を取ってしまった後の、その思いを告白してください。その際、告白の相手を次の人物の中からひとり選んでください。」として三人の人物を挙げています。「直実の主君・仲間の武士・若武者の父親」の三人です。
 授業時間中十三分程度を各人が文章を作る時間として与えられました。
 こういう作業をさせることを思いついた「ねらい」は、まず、古典であることの戸惑いから登場人物の心情に焦点を当てて、読み取らせるように工夫されていたように思います。もう一つのねらいは、文脈を読み取らすだけでなく、“創造性を働かす”ことにあったように思います。
 その後、何人かが指名され自分の書いた文章の発表がありました。

思いやりに感動
 私のメモを頼りに生徒が発表した要旨を以下に書きます。
《直実の主君への告白》
「私は息子と同じ年くらいの若武者を討ち取りました。武士として戦場に出ておきながら、自分の子どもと姿が重なり、その上しい姿として映りなかなかこの若武者の首を取ることができませんでした。手柄や褒美は要りませんから、この若武者の首を丁重に扱ってください。今、私はとても後悔しています。」
 別の生徒は、
《仲間の武士への告白》として
「私が、若武者の首を取ったのは正しかったのだろうか。自分の息子と同じくらいの年の武士の首を取って褒美を貰ったとしても、喜べるまい。若武者の身内はどんなに悲しみ、苦しむであろう。いっそのこと、自分の首を切った方が良かったかも知れない」
《若武者の父親への告白》として、指名された生徒は、自分が記した   メモ用紙を見ながら、
「私は、あなたの息子さんの首を取ってしまいました。あなたの息子さんほど、武士としてのプライドを持っていた人は見たことがありません。今、私は非常に後悔しています。私もひとりの父親としてただ謝りたいと思います。」

 授業で書かれた用紙は、全員の分が時間の終わりに授業を担当した先生に提出されました。
 こんな具合で授業が進みました。
 生徒にとっては慣れない古典の文章で、読み解いた文章の感想文を書くのではなく、その文章にいない人の立場に立って文章を作成するという設定でした。果たしてどのような文章が、短時間の内に作れるかわくわくとしながら、授業の進行を見ておりました。
発表される文章に聞き入りながら、私は、「生徒は、なんと思いやりがあり、他人の立場が推し量れる能力が、備わってきている」んだなということを実感いたしました。また、共感を呼ぶ内容の生徒の発表があるとみんな一斉に拍手が起こります。良い雰囲気で授業が進んでいることを実感いたしました。

 工夫が凝らされた授業
 指導教諭と教生の共同作業で授業内容が吟味され、話し合いを重ねた上で構成されたのだと思います。この授業構成は、本校が目指している方針を踏まえてものになっていると感じました。それは、「人の立場を“思いやれる”ことが大切である」ことや、「コミュニケーション能力ーー自分の感じたことや思ったことをまとめ、他の人に話す能力ーーが育って欲しい」と校内では、目標のひとつに掲げているからです。素晴らしい授業であることに感動し、指導する先生の授業内容の工夫が凝らされていることに改めて敬意の念を抱きました。同時に教育実習生も、教職の素晴らしさを感じ、奥が深いことも分かったのではないかと思います。

 教育実習性は他に七人おり、国語、地理歴史・公民、数学、理科、芸術の各教科において、貴重な経験を積みました。一人ひとりについてここで記述することは紙数の関係で無理ですが、今後先生の卵になり、雛になり、成長して大きく羽ばたいていくものと確信しました。