校長のメッセージ  20 和田 征士 平成15年 6月16日
《 高1生の学年通信から 》
異色の進路からジャンボ機のパイロットに

 「海城高等学校1年学年通信」の最新号が私の手元に回ってきました。夏休みに行われる「語学研修」の案内や、中間考査の成績などの記事とともに、ある卒業生が、大学文系学部に進学した後、30歳の現在、JALのジャンボ機のパイロットで活躍していることが、ある雑誌記事に紹介されていることを取り上げています。
 私も興味を持ちましたので再転させていただきここで紹介します。 彼は、本校高校の文系コースを卒業して一橋大学 経済学部に入学しました。 
 パイロットになろうとしたのは、一橋大学在学中の3年の時に、ラジオで、一般大学生でも、パイロットになれるということを聴いたのが最初のきっかけだそうです。その後パイロットにはどんな人が向いているのか調べたところ、冷静、協調性がある、一点集中にならないなど、自分の性格にぴったりであることが判って、そのときが転向点だったそうです。大学卒業後、パイロットになるための試験に合格し、約4年間の訓練を経て、JALの副操縦士としてジャンボ機に乗務するようになったようです。
 雑誌の紹介では、すらすら副操縦士になったように記述していますが、パイロットになるための登竜門の試験は激烈なものがあると聞いています。その試験をパスし、4年にも及ぶ訓練の中で常に成績が優秀であったので、ジャンボ機のような最も多い乗客が乗る飛行機に乗務できるようになったのでしょう。経済学部に在学していながら、勿論、英会話には熟達していたでありましょうし、機械や機器の操作など、本来理系的、あるいは工学的能力が十分に備わっていたのだと思います。
 今これを読んでいる読者諸氏には、将来パイロットになりたければ、経済学部に進学するのが早道であると早合点する人はいないと思いますが、念のため指摘しておきます。飛行機の、特にジャンボ機のパイロットは、総合的な能力が要求される職業であることは間違いないようです。ただ、本校の他の例からみても、例えば、早稲田大学政経学部卒業生がパイロットになるなど、文系学部出身者がパイロットになっているケースも意外に多いようです。
 その彼の高校時代は、バスケット部に所属し、活躍しながら勉強との両立に苦心し、青春を悩み、そして青春を謳歌したようであります。
 参考にした雑誌記事は、リクルート社の雑誌のタイトルは、「高校2・3年生が作ったやりたいことチャレンジBOOK」サブタイトルが「1年生! じぶん 未来 ブック」です。

《 彼を育んだ背景 》
学校では、彼のような変わった進路の選び方を奨励しているわけではありません。ただ、本校の教育の方針に沿って学習を進めていくとこういうこともあり得るかなとは思います。どうしてかというと次のようなことがあるからです。
 本校では、高校2年生から、「文系コース」、「理系コース」のどちらかを選択することにしています。しかしどちらを選択しても、理科系の教科、文化系の教科の科目数はほとんど同じです。簡単に言うと、文系コースを選んだとしても、理科系の科目を履修するようになっています。ここが他校と違うところかもしれません。他校では、文系を選べば、理系の科目は履修しなくていい学校が多いかもしれません。
 本校は上に述べた方針を貫いていますから、卒業生は誰でも、「文」とか「理」に偏らない「総合的な力」が身に付いています。これは将来社会で活躍する場合に、そういう力が必要であると、校内の先生方全員がそう考えているからです。
 ルネッサンス期の「モナリザ」で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画で有名ですが、その他にも建築や、ヘリコプターの設計をするなど、科学分野にも業績を残しています。ミケランジェロなどその他にも芸術や科学分野など多方面で能力を発揮している人がいます。
 私は、文系・理系などは便宜的なもので、人間は本来多くの分野でいろんな才能を持っているものと思っています。ただ、それに気付かず、才能を開花させていない人が多いのではないでしょうか。